ぐるり の おはなし | ren.smaragdo
日本語タイトル入ります
ぐるり
の
おはなし
1
あの時「ごめん」って言っていれば
今も君と続いていられたのだろうか
もう10年以上前のことを時々考えてしまう。妻もいて子供もいて平穏この上ない暮らしをしているのに、「ごめん」と言えずに傷つけた君のことが忘れられずにいる。もうそろそろ君との思い出が消えてくれたらいいのに、そう思いはするものの、なにかの拍子にふっと君のことが脳裏に鮮やかに甦る。
きっかけはホントに些細なことだった
ちょっとしたことがつみ重なって
「ごめん」が言えなくなった
なぜそんなに意固地だったのか
今ではもう思い出せないけれど、でも
「ごめん」たったそれだけの言葉なのに、なんて伝えるのは難しいんだろう。
伝えていれば、君を傷つけずにすんだのに。
今ならきっと「ごめん」と言える。
なのにもう、君がいない
Hard To Say I'm Sorry
その昔、中国の皇帝が封禅の儀式を行った際、泰山の麓でみかけた色白の美しい娘を連れ帰り、閨にはべらせ思いのまま愉しんだが、翌朝その娘は見るも無残な朽葉色となり干からびて死んでいた。皇帝は諦めきれず、また泰山に行った折、気に入った娘を無理矢理連れもどったが、どの娘も肌は透き通るほど白く、香気かぐわしい娘であったのが、はじめの娘同様、皇帝に花を散らされた翌日、変わり果てた姿となった。さすがに哀れに思ったのか、皇帝は娘たちを親元に返し、丁重に弔うようにと、大金を送った。親たちの嘆きはいかばかりか。その後、娘たちが弔われた場所からは樹が生え大木となり、見事な白い花を咲かせたという。
これが泰山木の由来である。
皇帝の我侭がなによりも優先された時代のおはなし。
梅雨らしからぬ陽射しのきつい、のぼせそうなそんな朝。駅までの僅か数分の道のりでも汗が吹き出すよう朝。大木が気持ちよさげな木陰を道端に落としていた。朝陽に照らされ前日のなごりがリセットされた空気は、すでにたっぷり湿気をはらんで、その粒子に混じって甘やかで眠たげな香りが一面に漂っている。
たまたま木陰が涼しげで足をとめたが、普段朝は気ばかりが急いて、あたりに目を向ける余裕もない。けれどこの香気が深く躰の内側に取りこまれると、そんなせかせかした気分も鎮まるようで、ついかたわらの大木を見上げた。
繁った長楕円形の葉に埋もれるように、白い花弁がいくつも見える。タイサンボクが咲いていた。葉も厚いがこの樹は花そのものも、ひどく重厚で存在感がある。つぼみはぼってりとした白磁のとっくりに似ており、開くと掌を広げたようにも見える花。
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贋作泰山木花由来
2

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- 著者:漣 祐貴
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